お酒と料理

木下喜信 / ブラッスリー ポール・ボキューズ 銀座 秋の日本酒とワイン、行きつ戻りつできる魅力

フランス料理界を代表する料理人のひとり、ポール・ボキューズ氏。世界にフランス料理を広めることを自らの使命とする彼が作るのは、日常の食が楽しめる「ブラッスリー」という形式だ。

そのうちのひとつ「ブラッスリー ポール・ボキューズ 銀座」でシェフを務める、木下喜信さん。これまで「レストランひらまつ」などのグランメゾンで腕を磨いた木下シェフが作るのは、シンプルでありながら洗練された料理。今回は、日本酒にもワインにも合うという料理を2品紹介してくれた。

とろりとした甘さ、ミネラル感があるのが共通項

とろりとした甘さ、ミネラル感があるのが共通項

今回私が選んだお酒は、群馬・清水屋酒造の「榮万寿(さかえます)純米酒 2013 FORTH VINTAGE」と、自社で輸入販売する、ブルゴーニュの女性醸造家クローディ・ジョバールが造る「リュリー モンターニュ・ラ・フォリ2010」です。日本酒と葡萄酒は味わいとして大きく異なりますが、「榮万寿」はワインを意識して造られていることもあり、ブルゴーニュのワインに似たニュアンスがあります。

両方ともミネラル感が印象的で、とろっとした甘さがある。それが椎茸などの“和のうまみ”とマッチングするんですね。お酒を一緒に選んでくれた支配人、いかがですか?

日隈支配人:『榮万寿は、長い余韻の中に木を思わせる香りが感じられます。非常に繊細でコクがあり、飲み飽きない日本酒ですね。リュリーは、果実味が豊かで、樽を使った香ばしさが残ります。その余韻の感じが、榮万寿と近しいですね。両方とも冷やしすぎず、10~13℃でお飲みいただくのがお薦め。少し涼しさを感じた秋にぴったりです』

1.鮭や根菜と合わせる 『秋鮭と根菜の蒸し煮 ハーブマヨネーズ添え』

日本の秋の定番食材、秋鮭をメインに、塩だけでナチュラルな味に仕上げました。お酒を飲んだときに感じたミネラル感から塩をイメージし、野菜のうまみと塩だけで仕立ててみたいと考えたんです。

1.鮭や根菜と合わせる 『秋鮭と根菜の蒸し煮 ハーブマヨネーズ添え』

洋風のアクセントであるハーブマヨネーズをつけることで、白ワインにも合うようにしました。リュリーはハーブの香りもするワインなので、ハーブマヨネーズを添えて食べるとよりおいしく召し上がっていただけると思います。お野菜や鮭から出たエキスは、コクのある日本酒とも合いますね。

僕の好きなダ・ヴィンチの言葉で、「シンプルが一番洗練されて難しい」というのがありまして、本当にその通りだと思うんです。シンプルは、ごまかしがきかない。大事なのは、食材の良さと選び方と、あとは火の入れ方ですね。同じ食材でも焼きすぎると全く違ってしまいますので、そこが難しいところです。

2.和のキノコとマスタード 『椎茸のファルシ ペルシャード風』

「ペルシャード」とはニンニクとパセリで味付けをする、ブルゴーニュ地方の味。これを日本的にアレンジして、日本酒とワインの両方に合う味にしました。

2.和のキノコとマスタード 『椎茸のファルシ ペルシャード風』

ペルシャードは子羊などにつけて焼くのがスタンダードですが、それをアレンジしました。椎茸の和のうまみは日本酒を、パセリやマスタードの香りはワインを引き立ててくれます。

日隈支配人:『コクのあるタイプの日本酒はきのことの相性がいいですね。表面を香ばしく焼くことで、香ばしさの余韻があるという共通項もあります。ワインは熟成してくると、少しキノコのような香りがでてきます。「リュリー」もまた、コクのあるシャルドネ。どちらも秋口の食材に寄り添うお酒だと思います』

共通の香りを探っていく

月に一度、料理教室を開催しています。そこでは日本の食材も積極的に使い、フランスのクラシックな調理法を使った料理を伝えています。ご興味のある方は是非お越しください。

ワインや日本酒に合うフランス料理を作るとき、僕がよく考えるのは「どの味、香りを共通項にするか」。ボルドーの赤ワインだったら、赤ワイン煮込みでもローズマリーを入れてみようとか、ワインから受け取る“香り”を料理のアクセントにすることが多いですね。

秋鮭と根菜の蒸し煮 ハーブマヨネーズ添え と 椎茸のファルシ ペルシャード風

秋鮭と根菜の蒸し煮 ハーブマヨネーズ添え と 椎茸のファルシ ペルシャード風

コツ・ポイント

秋鮭と根菜の蒸し煮は、根菜の下茹でがコツ。0.5%~0.8%の塩水で堅めに茹でます。バターと白ワインの香りを野菜と鮭にまとわせるようなイメージで火を入れていきます。食感も大事な「味」なので、火の入れすぎに注意することもポイントです。

椎茸のファルシは、肉厚の椎茸を使い、隙間がないように肉を詰めましょう。

榮万寿(さかえます)純米酒 2013 FORTH VINTAGE

榮万寿(さかえます)純米酒 2013 FORTH VINTAGE

分類:純米酒

原材料:米、米こうじ

米の品種:原料米(新潟県五百万石)

精米歩合:55%

アルコール分:16%

清水屋酒造/創業1873年。群馬県館林市の酒蔵だ。1985から日本酒の製造を休止していたものの、2010年に六代目が蔵に戻ったことをきっかけに25年ぶりに造りを再開した。テーブルに日本酒が置かれることを念頭に、スタイリッシュなワインボトルとラベルに刷新。「榮万寿 SAKAEMASU」は単一年に収穫された五百万石を使った全量純米造り、長期低温発酵の無濾過で少量造りが特徴。ブルゴーニュボトルにコルクで栓をして世に出される。

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リュリー モンターニュ・ラ・フォリ2010

リュリー モンターニュ・ラ・フォリ2010

分類:白ワイン

葡萄の品種:シャルドネ

生産地方:ブルゴーニュ

味わい:辛口

アルコール分:16%

クローディ・ジョバール/ブルゴーニュの南、コート・シャロネーズを拠点とする女性オーナー醸造家によるワイン。土地は粘土石灰土壌で、「リュリー」は蜂蜜の香りやモモなどのニュアンス、繊細なミネラル感が特徴。果実味があり、余韻に樽熟成特有の香ばしい香りがある。5年前の2010年製が、いま飲み頃。「ひらまつオンライン」で購入可能。

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  • 文:柿本礼子
  • 写真:牧田健太郎