発酵特集(RED U-35)

発酵特集(RED U-35)

井上シェフのテーマ食材「酢」

酢によって使い方を変え、料理に奥行きを与える。

《酢 その1》酸辣湯 〜酢とコショウのとろみスープ〜

「酢」は中国料理に欠かせない存在です。酸味だけでなくまろやかさ、旨味、コクなど、さまざまな風味をもたらしてくれます。もっと酢のいろいろな使い方を楽しんでもらえたらと思い、今回の食材に選びました。
酸辣湯(サンラータン)は麺料理のベースにもなっている人気のスープ。酸っぱくて辛いのが特長ですね。辛さを生み出すのは辣油と思われがちですが、実はコショウなんです。あのピリリとした刺激的な辛さが酢と調和して、おいしさを生み出します。
酢は米酢を使用しました。酸味をストレートに味わってほしいので、ベースとなるスープは、澄んでいることが大切です。煮込んでしまうと肉から出た脂が乳化してしまうので、必要以上に沸騰させず、具材は細切りに統一してさっと煮る程度に火を通し、仕上げに酢を加えて酸味を立たせます。
透き通ったスープは味わいも澄んでいて、そこにふわっと酸の香りがして、後からコショウのピリッとした辛さがきます。スープは干し貝柱や干しえびなどを使うこともありますが、レシピのように干し椎茸だけでも十分おいしくできます。

>酢によって使い方を変え、料理に奥行きを与える。

《酢 その2》紅燜土鶏塊 〜もっちり濃厚!鶏肉の黒醋煮込み〜

中国では、酢を「醋」と書きます。米酢などの透き通った酢は「白醋」、黒褐色の黒酢が「黒醋」です。黒酢は一般的な酢と原料や製法が異なり、熟成しているので酸味が穏やかという特長があります。最後の仕上げではなく、黒酢を加えて食材を煮込むと、酸味は飛んでまろやかさが前面に表れ、スープとなじんで味のまとめ役になるんです。
実はこの一品、本国で衝撃を受けたスッポンの煮込み料理を鶏肉でアレンジしたものです。酢は、酸味を主張させない料理にもなくてはならない、いわば名脇役。コクを増す隠し味的な要素も持っていて、それはおいしい発見でした。しかも餅でとろみ付けしているんです。水溶き片栗粉とは違う、独特なまったり感がいい。
「燜」は、ふたをして煮詰めるという意味なんですが、短時間でできるように圧力鍋を活用したレシピにしました。圧力鍋がない場合は、ふたをしてグツグツ強火で煮立てて、素材を一体化させましょう。その間に黒酢が味をまとめ、仕上げの餅が溶けて旨味をとじ込めます。

さまざまな土地の食材で、自分なりの料理を表現したい。

年齢的に最後の挑戦だった2016の『RED U-35』では、ある意味開き直るような思いで、奇をてらわず自信をもって伝えられる自分なりの料理を表現しました。念願のグランプリ《レッドエッグ》をとれたことは大いなる励みです。周囲の反響も予想以上で、井上和豊という人間に注目していただける大きなチャンスになったと実感しています。今後もさまざまなことにチャレンジしたいというのが率直な気持ちです。
次に目指したいのは先輩シェフたちが金賞を獲得した、4年に一度の中国料理世界大会です。そしていずれは世界の地を巡り、そこで出合った食材で自分なりの料理を作り、たくさんの人に食べていただきたい。一料理人としての、大きな夢です。

井上シェフの「酢」レシピ

  • 酸辣湯 〜酢とコショウのとろみスープ〜

    酸辣湯 〜酢とコショウのとろみスープ〜
    酸辣湯 〜酢とコショウのとろみスープ〜

    特長

    キュッと喉の奥を刺激する酢の香りに引き寄せられ、れんげで具をすくうと、細切りした豚肉やたけのこ、干し椎茸、絹ごし豆腐、そして春雨が勢ぞろいし、一口でさまざまな食感と風味をもたらします。ストレートな酸味に圧倒されますが、喉を抜けるとそれがスッキリとした爽やかさに。期待通りコショウの辛みがパッと放たれて、次のもうひと口を誘います。調味料は身近なものだけなのに、クセになる複雑なおいしさです。

    ポイント

    酢の酸味とコショウの辛みをストレートに味わえるように、ベースは澄んだスープに仕上げます。具をグラグラと煮込むと肉から脂が出て乳化してしまうので、必要以上に沸騰させず、具材は細切りに統一してさっと煮て火を通します。酢は仕上げに加えて酸味を立たせましょう。

  • 紅燜土鶏塊 〜もっちり濃厚!鶏肉の黒醋煮込み〜

    紅燜土鶏塊 〜もっちり濃厚!鶏肉の黒醋煮込み〜
    紅燜土鶏塊 〜もっちり濃厚!鶏肉の黒醋煮込み〜

    特長

    圧力鍋で5分煮ただけとは思えない、素材の旨味とコクの一体感! 黒酢とチキンスープ、少量のオイスターソース、砂糖などで煮詰めたまろやかな煮汁がとろとろの餅にしみ込み、鶏肉やじゃがいも、れんこんに絡んで奥深い味わいです。餅のとろみはしっかりと食べごたえがあってお腹も満足。噛みしめていると時折出てくる長ねぎや生姜は、あえて粗みじんにして加えることで、こってりしたなかに爽やかな清涼を与えるアクセントになります。

    ポイント

    味のまとめ役は黒酢。具材を煮込む段階で加えることで酸味は飛んでまろやかになり、スープとなじんで味をまとめます。煮込むときは圧力鍋を活用して時間短縮。圧力鍋がない場合は、土鍋にふたをしてグツグツ強火で煮立てて、素材を一体化させましょう。仕上げに餅を加えて、とろみ付けします。